初の国際大会「想定と違うことはほぼ起こらなかった」ネーションズカップ香港/梅川風子・インタビュー
2021.06.28
『TISSOT UCIネーションズカップ』第2戦・香港にて、大暴れしてきた日本代表チーム。コロンビアで実施予定だった『ネーションズカップ』第3戦も延期になり、アジア選手権もオリンピック後に延期・・・と、再び国際大会から離れる期間となる。
香港大会を終えた手応え、レースの振り返り、そしてこれからのこと・・・梅川風子選手に話を伺った。
※インタビューは5月末に実施しました。
日本でのレースはほぼ実戦だった

Q:5月中旬に香港で行われた大会から帰国し、ただいま隔離期間中。どのように過ごしていますか?
器具を揃えてもらっており、特に苦もなく、充実したトレーニングをしながら過ごしています。トレーニング以外には・・・特に何もしてないですね。
Q:「何もしてない」が苦じゃないタイプ?
そうですね(笑)自分の時間が好きですし、移動がない分ゆっくりできているので、それはとても良いです。
Q:では、大会全体の感想を一言で教えてください。
「しんどかった」ですね。スプリントの対戦で、一本一本の合間の時間がとても短かったんです。それが「しんどかった」の一番の理由です。
Q:1本走ってすぐまた出る、ということですね。合間の時間はどれくらいだったんでしょうか?
1本目と2本目の間は割と普通で、20分くらい開いてたんです。でも3本目にもつれた時は5分くらいで始まったりして・・・
後々聞いたら、こんなことは他のレースではほぼないとのことでした。参加人数が少ないが故のドタバタ感というか、「ちょっとやばいぞ」というのがありましたね。

Q:梅川選手にとって初の国際レースだったわけですが、想定と違う部分や、学びはありましたか?
想定と違うことはほぼ起こらなかったです。自分の想像してた通りにことが運んでいたと思います。「日本でかなり実戦に近い練習ができていたんだな」と感じました。だからこそ、初めての国際レースでもあまり驚かなかったのだと思います。
オリンピックシュミレーションだったり、非公開で行われたレースなどが、かなり実戦に近かったのだと実感しました。
Q:「実戦に近い」というのは、どのような部分が?
実際の大会と同じような環境で行ってくれていました。大会関係者を集めることから、アナウンス、時間割、プログラムの組み方・・・もちろんスプリントの時間間隔もですね。
先ほど「短い時間でやったのでしんどかった」とお話ししましたけど、日本で、そのような時間組でやったことが過去にあったんです。なのでドタバタはしましたが、驚きはありませんでした。
今回初戦でしたけど、「日本で良い経験ができていたんだな」というのが一番の感想です。
体力面が課題、スプリント

Q:大会ではスプリントとケイリンに出場されました。スプリントを振り返っていただけますか?
スプリントは予選の200mFTTから始まります。もちろんタイムも狙っていました。でも「納得できないタイムから始まった」というのが最初の感想ですね。
女子スプリント予選結果
| 1 | リー・ワイジー(李慧詩) | 香港 | 10.644 |
| 2 | 小林優香 | 日本 | 10.819 |
| 3 | 太田りゆ | ブリヂストン | 10.866 |
| 4 | 梅川風子 | 楽天Kドリームス | 10.949 |
| 5 | ミリアム・べチェ | イタリア | 10.971 |
| 6 | 佐藤水菜 | 楽天Kドリームス | 10.989 |
| 7 | マダリン・ゴドビー | アメリカ | 11.009 |
今回は自分で考えて走るというより「コーチのアドバイスをしっかり実戦する」という意識でした。半分くらいはそれをクリアできたのですが、もう半分は体力面で自分に負けてしまったと思います。
Q:体力面というのは、先ほども話のあった1本1本の間が短時間だったことが原因でしょうか?
それもありますし、何本も走ると最後の方は体がついていかなくて。チャンスがあるのに逃してしまったり、長い距離を走れなかったりしました。雑になってしまうんですね。最初の方は体力もあるので繊細なレースができるんですが、後半ではそれが難しくなってしまいます。
スプリントでは体力面の強化が必要だと感じました。
Q:大会中にコーチからもらうアドバイスって、普段の練習と違うものだったりしますか?
まったく違いますね。レース直前にぱぱっと相手選手の情報を教えてもらったりするのですが、普段の練習中にはできないアドバイスだと思います。
というのも、対戦相手と本気でぶつかる、その直前じゃないとできないアドバイスだと思うんです。相手の特徴や癖を事前に教えてもらうと、そう思い込みすぎてしまう。直前だからこそ「思い込む」まで行かず、かつ意識できるのかな、と。
コーチたちはもっとたくさん分析して、情報を持っているのだと思います。でもそれを伝えるタイミング、量を調整して、選手の混乱を防いでいるんでしょうね。
Q:もらうアドバイスは、対戦相手のデータが多いのでしょうか?
そうですね。特に私が知らないから、というのもあると思います。「基本的には柔軟に対応するけれど、こういう展開になったらこう動いたら勝機がありそう」のようなアドバイスです。
“今大会最強”との対戦
Q:今回対戦した外国人選手で、印象的だった選手は?
やっぱりリー・ワイジー(李慧詩:香港)選手です。今回のネーションズカップでは最も強いと言える選手ですし、初戦で対戦できて良かったと思います。

Q:スプリントで対戦が決まった時、どう思いました?
「教えてもらおう」という気持ちが半分、「あわよくば勝ってやる」みたいな気持ちが半分でしたね。でも1本目が終わった時点で「あわよくば」は無くなりました(笑)ぶちのめされましたね。「こんなに強いのか」と実感しました。
Q:リー・ワイジー選手の、特にどの部分が強いと感じましたか?
「加速力」ですね。1本目、彼女は「自分のペースで走る」レースをしました。相手の隙を狙う、みたいな走りではなかった。おそらくリー・ワイジー選手としては長めの距離をもがいていたですが、それでもまったく距離が縮まらない。それが衝撃的でした。
1対1でやるとすごく顕著に出る、誤魔化しが効かない、と感じました。
Q:以前のインタビューで「国際大会では外国人選手の気迫なども身をもって感じたい」とおっしゃっていました。その辺りはいかがでしたか?
感じました。発走前の過ごし方や、スタートラインに着いた時の気迫・・・私自身も出しているつもりだったんですが、他の選手はより出ているなあと感じました。
ルーキー対決の反省
Q:3位決定戦は日本人対決、佐藤水菜選手との対戦でした。
お互いに悪いレースをしてしまいました。さっき言った体力面、インターバルの時間が短かったことなどもあるのですが、そもそも私も佐藤選手も、国際レースに追いついていない体力だったと思います。

ずっと駆け引きをし続けてしまいました。チャンスがあるにも関わらず、攻めるレースができなかったです。お互いにまったく同じことをしていましたね。
私が3本目を取ったんですが、あれは「先に仕掛けた方が勝った」だけのことでした。もちろん銅メダルは嬉しいですが、良いレースができたかというとそうではない。課題を感じました。
Q:すっきりしない、のような感じでしょうか。
そうですね、「ただ勝っただけ」でした。「最低限勝たなければいけない」と思っていたので、そこをクリアできたのは良かったですが、これからスプリントをやっていくことを考えれば、ダメなレースでした。
教わったこともやれずに、「どちらが勝つか」を優先しすぎたレースだったと思います。本来なら負けていたレースですね。
Q:梅川選手、ご自身に対してとても辛辣な言葉を使いますよね。
(笑)甘いこと言ったらダメですからね。
Q:自分の言葉に自分で傷ついてどんどん沈んじゃう、だから辛辣な言葉はなるべく使わない、みたいなタイプの人も多いと思うんです。それに比べると・・・と思いまして。
私は傷ついてないですよ(笑)響いてるだけです。
怖さに飛び込む戦い、ケイリン

Q:では、次はケイリンについてお聞かせください。
今回は1回戦と決勝の2本だけでした。1回戦では良い走りができたんですが、決勝は少し焦っていました。
Q:焦りはどこから来たのでしょうか?
「何もせずにレースが進んでしまう怖さ」がありました。誰が動くのが怖い、とかではなく、自分が後方に置かれてしまう可能性が怖くなってしまいました。先に動こうとした結果、ただ先行しただけになってしまったレースでしたね。
Q:周りの選手の影響で、というよりは、自分自身に起因する結果という感じでしょうか。
「自分が動くことで、周りがもうちょっと動く」ことも期待していたんです。でも自分の動きが早すぎたんですね。早かったので、相手もまだ動きたくないタイミングでした。
相手の動きを誘いたかったのですが、それにしても早かった。焦りがこの結果を招きましたね。
Q:総括すると「動くのが早すぎた」?
動くのが早すぎたし、「行くならもっと思い切って行くべき」とも言われました。
予選ではそれができたんです。早いタイミングで思いっきり行けたんですが、終わった時とても苦しかった。それが・・・多分怖かったんですね(笑)同じことの再現をセーブしちゃった部分があるのだと思います。

Q:その「怖い」というのは、どういう怖さなんでしょうか。
1回戦では2周先行したんですが、残り1周時点で「もうフィニッシュした」くらいの足の感じだったんです。自転車に乗ってハンドルを握ってはいるけれど、その感覚がない、といった状態。フィニッシュ前で結局差されちゃったんですが・・・
そういう状況になるのは怖いし、苦しい。それを知っちゃったところでの、決勝でした。自分との戦いに勝てなかったですね。
Q:1回戦と決勝の間は短かったんですか?
いえ、3時間くらい開いていました。なので体自体はフレッシュになっていたんですが、心が怖さに捕えられてましたね。体が元気になれば大丈夫、という類のものではありませんでした。
Q:「怖いとわかってて思い切って飛び込む」って、1kmTTに挑む人たちが良くそんなことを言いますよね。
(笑)近いと思います。近いというか、ほとんど同じなんじゃないでしょうか。
ドラゴンボールの世界、新田祐大

Q:今回の大会の中で、一番良いレースは?
スプリントの1回戦ですかね。イタリアの選手と対戦したのですが、良いレースができたと思います。
ジェイソン(・ニブレット)コーチにアドバイスをもらって、きちんとその通りに走れました。「その通りに走れた」こと自体が今の私には収穫です。「対戦相手のことを考えつつ、自分のペースに持ち込む」ことを少し実践できました。また、1回戦でしたので体力がフレッシュだったのもあります。
Q:では逆に、一番の課題は?
やっぱり体力ですね。テクニックは、もちろん研究は必要ですが、やって行くうちにできるようになると思うんです。まずは体力が課題です。
Q:体力の目指す地点が100だとして、今はどれくらいの場所ですか?
50いってないですね。もともと体力がある方じゃない上、レース中にどんどん消耗していきます。課題ですね。
Q:では、リー・ワイジー選手はどれくらい?
あの人は・・・体力があるかどうかは不明です。割と無いほうかもしれないと思ってます。何本も走っていると、だんだん温存するようになるので。でも、それを補って余りあるほどのダッシュ力がある選手です。
Q:今回自分以外の選手の姿で、印象に残ったものがあれば教えてください。
それは新田(祐大)さんですね。今回レース前の様子などかなりじっくり観察できたんですが、「やばい」と思いました。「こんなに自分を追い込んで大丈夫かな、死んでしまうんじゃないか」と思うくらい。集中をMAXまで高めていました。

もちろん他の選手も集中してるし、それぞれ集中の仕方が違うというのもあるのですが、新田さんの集中は・・・なんていうか・・・ドラゴンボールの世界みたいな・・・
命を賭けている、そのくらいまでに達したやり方のように感じました。
Q:新田選手の集中って、どんなことをしているんですか?
多くの人は、ただ静かになる、言葉が少なくなる、視野が狭くなってくる・・・といったところだと思うんですね。私もそんな感じです。
新田さんはずっと音楽を聴いて周りをシャットダウンして、発走前になるとタオルなどを被って、視覚もシャットダウンです。自分以外をすべて切り離して、ずっと自分と対峙しているように見えました。ずっと自問自答しているのかな・・・
Q:梅川選手はそういう系を目指したいですか?
集中の仕方は人それぞれですが、私はあんなふうに自分を追い込んでしまったら、続けられないんじゃないかと・・・(笑)それくらい、新田さんのやり方は凄まじいものがありました。
目指したい・・・ですかね、でも苦しすぎるかな。あそこに達するのはごく一部の人で、想像するだけでも苦しいです。

初の国際大会で、日本そして世界の強豪の戦う姿を目の当たりにした梅川選手。そこでの冷静な分析や、「想定と大きく違うことはなかった」と話す姿は心強い。2024年のパリオリンピックに向けて、さらなる飛躍に注目だ。



